「新しいイノベーションも、世界的な企業も、全て人が創り上げている」
そう私に実感をさせてくれる、人才力の高い革新都市、深セン。中国語では、人材を人才と書く。材=材料ではなく、才=才能という意味もある。私はこの「人才」という表現が好きだ。その人才中心都市深センで、実際に世界を舞台に挑戦している人々と直接触れ合い、そのリアルをお伝えしていきたい。
深センで旅を切り上げ、就職活動
「深センに降り立った瞬間、ここが探していた、新しい挑戦をする場所だと直感しました」
仕事のために単身で深センに渡る日本人女性は少ない。そんな貴重な女性のひとりであるMamiさんは、そう活き活きと話してくれた。彼女が勤務しているのは、創業当初から精力的に世界展開をしているSTEAM教育ロボットメーカー、「Makeblock(メイクブロック)」。日本でもSTEAM教育の一環であるプログラミング教育が、2020年度より義務教育に導入される。
深センで誕生し、創業5年で世界140カ国以上に製品展開している成長企業だ。グローバルアクセレレターHAXが生んだ有名企業の一つで、4400万ドルの資金調達を行い、ソフトバンクとも組み、2016年に日本進出も果たしている。
“ボーングローバル”な企業として、現在、日本を含む5カ国に拠点を持ち、社員数は500名を超える。その創業CEOは33歳、従業員の平均年齢はおよそ28才歳だ。本社の海外業務チームのメンバーは、ほぼ全員が英語が堪能で、受付にいる私に「May I help you?」と、自然に声を掛けてきてくれる。
Mamiさんが深セン本社に仲間入りしたのは、2018年の秋。現在、アジアチームに所属しながら、日本のマーケティングや製品のローカライズを担当している。
米国留学後、欧米系スタートアップ支援・投資企業の東京支社で、マーケティングコミュニケーションや採用、スタートアップ企業の採用支援を担当していた彼女。挑戦をサポートする側として、自分自身もグローバルに挑戦を続けようと、思い切って仕事を辞め、アジアを旅する中で、深センに訪れた。
「ここに降り立った瞬間、凄いパワーを感じて。夢を持つ人が集まって、イノベーションが起きているって肌で感じました。そして私も、ここの人達と新しい挑戦をしたいと心から思ったんですよね」
その後の予定を全て変更して、急遽、深センで就職活動を開始。現地で何のコネクションもない中、偶然前職の繋がりで知ったメイクブロックに何度も直接アプローチし、日本人として初めて本社でのポジションを作ってもらった。
「いつまでも、子供のままで」
もの凄い勇気と行動力。彼女は何故、そこまでして、メイクブロックで働きたいと思ったのか?
「いままでスタートアップ支援や人の挑戦を支える仕事をしてきて、人の可能性を高める為のサポートに、やり甲斐を感じていました。そして、世界の教育を変える。STEAM教育で子供達の創造性やチームワークを高め、更に可能性を広げる。そのビジョンにとても共感し、一緒に実現していきたいと思ったからです」
「Stay Childlike - いつまでも、子供のままで」
まず、僕達がそうあり続けようと、王CEOは社員全員に伝えているそうだ。
「グローバルスタンダードが浸透している企業だと感じています」とMamiさんは言う。
正直、彼女の中国語は未だビジネスレベルではなく、英語を共通言語としてコミュニケーションをとっているが、皆快く受け入れてくれ、特に問題はないという。
「働き方も合理的でスピーディー、各自が主体性とプロ意識を持って行動していますね。オンオフの切替えも上手、会社で朝・昼・夜と食事が提供されますが、夕食を食べて、定時でとっとと帰る人も結構います(笑)」
合理的にすすめられる仕事の多さやスピーディーさに戸惑いも大きく、連絡漏れなどのミスをすることもあった。その不安から立ち止まってしまったMamiさんを同僚の一言が大きく変えた。
「あなたは色々と抱え過ぎじゃない? やるべき事も大事だけど、やりたい事を明確化して、優先順位を付ければ良いと思うよ」とアドバイスをもらった時、それで良いんだと救われたそうだ。そう話す彼女に、暖かい仲間と素敵な企業風土を素直に感じた。
STEAM教育を世界に広めたい
素敵な女性が沢山活躍しているメイクブロック。そんな女性社員を束ねているリーダーとも出会うことが出来た。
中国人女性のLunittaさんは、深セン本社で、グローバル市場に関する全てのマーケティングコミュニケーションを統括しているIMC Director。現在、部下は17人と束ねる。
大勢のメンバーを管理するのは大変じゃないかと私が質問すると、「私はコミュニケーションをとるのが専門だし、好きだから。この仕事は楽しいし、彼らにいつも助けてもらっているわ」と笑顔で答えてくれた。
メンバーの自主性を尊重するのが彼女のマネジメントスタイル。彼女の部下の一人であるPRマネージャーも取材に同席してくれていたが、そのPRマネージャーが私にLunittaさんとの取材を提案してくれたことからも、確かに部下自らの提案力の高さを感じた。
前職は大手通信会社ZTEでグローバルPRディレクターを担当。長期勤務の中で、確実にキャリアアップを実現してした。そのキャリアをリセットしてでも、何故、メイクブロックで新しいチャンレンジをしようと思ったのか?
「私は大学から深センにいて、もう20年近くになります。年々、この場所に新しい世代の若者が増えてきましたが、彼らは本当に優秀。彼らから学ぶ事が多くなりました。私には6歳の娘がいますが、当社の教育ロボットで楽しく遊び、成長する姿をみて、次世代を育てるSTEAM教育は大切だと感じ、世界に広めていきたいと思いました」
もう一つ決め手があったそうだ。「それに魅力的だったのは、ソフトバンクが日本のパートナーだったこと。ソフトバンクが提携をする企業であれば、今後更に成長するに違いないと思えたことも大きかったです」
そして1年以上、ここで働いてきて、ますます楽しさが増しているそう。STEAM教育の発祥である欧州、特にフランスでは、公立学校へのロボット導入率が60%を超えた。また、彼ら主催の2018年ロボットコンテスト世界大会には、世界中から300チームの子供達が参加してくれた。
「もちろん、全ての市場が重要ですが、今後は特にアジア市場に、このロボットを通じて親子で共に楽しめて成長出来るSTEAM教育を届けていきたいです」と、真っすぐに彼女は語ってくれた。プロとして、母として、女性リーダーとして活躍する彼女から、凛としたパワーを貰った瞬間だった。
やはりここには、人才力の高い人々が集まって、企業のグローバルな成長を牽引していると、この取材を通じて改めて実感した。そしてこのメイクブロックは、深センにおいて特別なケースではない。
個人的に人才力が高いと感じる人々には共通点が3つある。それは、向上心が高く、サバイバル能力があり、勉強熱心であること。そのアウトプットとして、語学力が高く、世界を舞台に挑戦し、そして何より目的遂行のためにとにかく努力する彼らは、愚痴を言わないのではないだろうかとも思ってしまう。